この先のページは、当社の販売する製品に関する情報を、
医療および研究関係の方に提供するために作成しております。
一般の方への情報提供を目的としておりませんので、ご了承ください。

あなたは医療および研究関係者ですか?

目次へ

  1. HOME
  2. 製品情報
  3. 脈波計アルテット2
脈波計と解析ソフトをワンセット

携帯性に優れた高精度な脈波計。
指先で正確に脈波を測定します。


加速度脈波測定システムアルテット

一般医療機器 / 特定保守管理医療機器


※パソコンは構成品ではありません。別途ご用意ください。

パソコン条件、実績機種、推奨機種はこちら

※画面はハメコミ合成です。

アルテットのこだわり

  • 時間分解能1秒間に1000回、解析精度は補間により0.1msec。
  • 安静時短時間測定において、
    ECGのRR間隔とAPGのaa間隔の高い一致性。
  • フィルター処理による電源周波数ノイズ除去。類似度判定による不審波除去。
  • 波形特徴量と測定波形情報など保存可能。
  • 波形の解析精度を向上。心拍数30拍から240拍まで測定可能。
  • 指先で非侵襲的に測定できる、高性能の反射型センサ。

容積脈波、速度脈波(一次微分波)、加速度脈波(二次微分波)を同時に表示。

カバーを優しく開け、指の力を抜いてのせるだけ。

※測定時はカバーを閉じてください。

カタログダウンロード(PDF)

アルテットは診療補助ツール 診療報酬点数 D214 脈波図1検査 60点 (令和4年)

  • 薬効がみれます。
  • 動脈硬化関連疾患のスクリーニング。
  • 生活習慣病および心身症の予防、診断・治療。
  • 反復測定による基礎情報
    血管弾力性評価、循環系加齢評価、末梢血管抵抗の変化、
    心拍変動性と周波数解析

脈波計アルテット2

一般医療機器 / 特定保守管理医療機器

型式 PDU-M200

センサ 方式:赤外線センサ、反射型
中心波長:940nm
増幅回路 出力最大振幅:3.3V
直流カット時定数:2秒
AD変換 変換周波数:1000回/秒
分解能:3.23mV/digit
時間精度 誤差:0.01%以下
インターフェイス 方式:USB Ver. 1.1
電源:バスパワード
USBケーブル USB2.0 A-miniBタイプ 1m
フィルター処理 方式:パソコンソフトウェアによるデジタルフィルター
遮断周波数:-6dB at 20Hz
電源周波数除去率:60dB以上
電撃防護形式 クラスII機器(二重絶縁ACアダプタを用いた汎用パソコンを使用)
安全性 クラスI
定格電圧 DC5V(USBより供給)
定格電流 15mA
対応OS Windows® 10 , 11

※Microsoft®、Windows®、Windows® 10、Windows® 11は、米国 Microsoft Corporation の米国、日本およびその他の国における登録商標または商標です。
※外観・仕様(ソフトを含む)は改良のため予告なく変更することがあります。あらかじめご了承ください。

保守点検修理用紙(PDF) 脈波計アルテット(PDU-M100)製造終了のおしらせ(PDF)

エンジニアのための脈波計開発にあたっての生理学メモ

INTRODUCTION
2004/12/4

脈波を始めて5年になるが、なかなか面白い。
始めた頃は、脈波の波形にゆらぎが見られる、このゆらぎが健康の指標である、
という考えからスタートしている。(いまのアルテットの血管老化指数は、平均波形から、血管老化の進行の目安とする訳だが、波形が変化すること自体がクレームとなる。困ったことだ。これはこれで、統計的に有効なことだということを理解してもらわねばならぬ。)
ゆらぎを定量化する手法としては、カオス解析やフラクタル解析などでゆらぎの複雑性などをみる手法がある。
容積脈波の原波形では変化が分かりにくいが、二回微分した加速度脈波では一拍ごとの変化が明瞭に見られる。
カオスのアトラクター表示で見ると、視覚的に確かに体調による違いが見られるようだ。
技術者としての開発の熱意は、重要な情報を含んでいるかどうかの、直感的なものが重要である。
加速度脈波の解析システムを組んで波形のゆらぎを詳細に観察し、波形のどこが変化するのかをみてみると、大変多くの要素が見えてくる。
波形の変化という表現からすると、一拍ごとの時間間隔(脈拍間隔:脈拍数の逆数)と振幅が同じで、形だけが変化するというイメージが浮かぶが、実際は、振幅の変化と脈拍数の変化がある。形の変化も、加速度脈波の複数の成分波(b波、c波、d波、e波)が各々変化する。そして脈拍間隔、振幅、複数の波形成分各々が独立に、てんで勝手に変化するのだ。
変化が同期しているものも見られるが、その場合も、あるときには突然同期が崩れる場合がある。更にややこしいのは、突発的な乱れは、発生間隔が不定期で時間間隔が長いほど乱れが大きい傾向が見られる。これから、長周期のゆらぎ成分ほど変動のパワーが大きい、f分の一ゆらぎの特性を示している、といわれるわけだ。これこそカオス解析の出番だ、ということで、カオス解析でエイヤッと丸ごと解析するには問題がある。

カオス解析は、複雑性の解析手法であるが、現象の背後に規則があることを前提にしている。ある期間を解析するときには、その解析期間においては背後にある規則は変わっていないという、定常性が仮定されるわけである。ところが、観察しているとある区間ではそうかもしれないが、突発的な変化のパターンを見ていると、背後にある規則も変わっているような気がする。気がするだけかもしれない、というところが痛いところだが、この定常的なカオス性の検証の手法があるようで、カオスの視点で研究されているところでは、このようなことも積極的に議論されている。

脈波計測技術の基礎 0 :
2006/11/26

加速度脈波は、変化が大きすぎるといわれる。
しかし、脈波が関心をもたれているのは、他の測定法では検出できないような、日常生活における体調変化のような微妙な生理状態の変化が捉えられるかもしれない、ということが期待されているからなのだ。
変化が見られるのは、それだけ生体の生理状態が絶えず変化していることの現れであるわけだ。

波形が変化することについてのクレームの内容は、血管老化という器質的な血管の変性の程度を診たいという目的から、器質的な状態がこんなに変化するわけはないだろう、という点と、このことから、測定器の測定精度に問題があるのではないか、という点にあるようだ。

前者については、血管老化という血管の器質的な変性による波形の変化は、日常生活における生理状態の変化に伴う波形変化に比べて、波形指数で3倍程度の変化があることを指摘しておく。
日常生活においては、日差変動も含めて波形指数が0.4程度変化することがある。
これに対して、若い人の波形指数が0.8程度、高齢者で動脈硬化が疑われる人の波形指数は-0.5程度になるので、その差1.3は、日常生活における変化幅の3倍程度となる。

さて、後者についてであるが、さまざまな疑問を解消するため、これから脈波計測にかかわる基礎の基礎を考えてみたい。脈波にかかわらず、センサーを用いた計測技術のノウハウ的な部分も含むことになると思うが、脈波計測の普及のためにも必要なことと思う。
以下、項を改めることにする。

脈波計測技術の基礎 1 :
2006/11/28

---アナログ信号処理回路の検討
以下、できる限り基礎的でかつ簡単な形で検討するよう心がけるつもりだ。

脈波計測に用いられる電子回路は、できる限り波形に歪みが発生しないように設計する必要がある。ところが、アナログ信号処理回路で必ず用いられる、抵抗RとコンデンサーCを用いた積分回路と微分回路(これらの特性は、時定数CRで特徴付けられる)は、通常、交流信号に対して、実用的に歪みが発生しない条件で使用される筈のものであるが、加速度脈波への影響がどの程度あるかに付いての厳密な検討結果は報告されていない。そこで、デジタルデータを用いたシミュレーションにより、これらのアナログ回路が、加速度脈波の波形に及ぼす影響を検討してみることにする。(未完)

脈波は体調管理の基本技術たりえるか 0 :
2007/2/7

前回書きかけのテーマ 脈波計測技術の基礎 は、実用化に必要なハードウェアレベルからの、いわばボトムアップのための基礎固めだ。
ここで、書いておきたいのは、その技術の応用上の根拠を探る、トップダウン的な根拠固めだ。

脈波は、古来中国の脈診から、近年のカオス解析による健康度評価法に至るまで、さまざまな角度から、体調を反映する、と考えられてきた。
脈診は、脈の速さと共に強弱の変化パターンを見ていて、どちらかというと脈の波形解析に対応する。
最初のIntroductionところで、脈波の波形が揺らいでいることを書いたが、これは心臓の筋収縮の速さの違いとか、動脈の分岐点での反射とかの循環器系のさまざまな要因による機能的な状態変化が、脈波の形の変化として現れているという、大変複雑な話だ。カオス解析は、生体の生理状態は体内の恒常性維持のため絶えず揺らいでいる、という観点から、ゆらぎのパターンを複雑性の程度などで定量化しようという試みだ。

ところで、心拍は体調によって変化する。運動すれば早くなる。食後も早くなるし、風邪を引いても早くなる。
心拍の早い遅いは、一分間の心拍の数、つまり心拍数で測る。この意味での心拍数は、実際に一分間の心拍の数を数える。
安静にしているときは、穏やかに、拍動から次の拍動までの時間間隔は一定間隔で拍動している、と無条件にみなしている人が多いと思う。
ところが結構変動している。若い人なら5%以上変化している。これを心拍変動という。
安静時におけるこの変化のメカニズムは、呼吸が大きく絡んでいて、心拍間隔は呼吸周期で変動している。
普通、一分間に10回くらい呼吸するので、一分間の心拍の数を計ると、呼吸周期の変化はならされるので、心拍数としては変化がほとんど認められない。

さて、この心拍変動が最近大きな注目を浴びている。どういうところで注目されているかは、また項を改めることにするが、ここでは、先に、何故心拍間隔が呼吸周期で変化しているのか、少し見ておくことにする。

参考文献(早野順一郎、岡田暁宣、安間文彦“心拍ゆらぎ:そのメカニズムと意義”人工臓器25巻5号、pp.870-880)によると、「脳幹循環中枢の心臓迷走神経出力ニューロンの活動は、呼吸中枢からの干渉により吸気時に抑制され、呼気時に刺激される。また、このニューロンは圧受容体や化学受容体反射中枢と上位中枢よりの入力によって刺激されるが、これらの入力は肺の伸展受容体からの入力によって呼気時に遮断される(inspiratory gating)。そして、ある程度以上の深さの呼吸を行っているときは、心臓迷走神経活動は吸気時にほぼ消失し、呼気時にのみ現れる。これらの機序によって生ずる心臓迷走神経活動の呼吸性変動により、R-R間隔は呼気時に延長し吸気時に短縮する。」

これを、理解するために、図解してみた。
こんな感じだろうか。
図解1 これをもとに、以後、体調との関連を探ってみる。(ただし、このコーナーは、結論ありき、の報告ではないので、いろいろな疑問と関連する話題についてとりあえず調べてみたことををストレートに書いていくことにする。)

洞房結節 :
2007/4/10

約一万個の細胞集団で構成され、ここで生み出された電気リズムが、心臓の他の部分に拍動の刺激を与える。 洞房結節を構成する一万個もの細胞は、各々対等のリズム発生機構で動作しており、特に指揮者となる細胞はない。 従って、なにか同期するメカニズムがなければ、おのおの勝手なリズムで信号を発生し、全体が一定のタイミングで信号を発生することはできない。
この同期メカニズムについて、1975年、ニューヨーク大学クーラント研究所の応用数学者、チャーリー・ぺスキンが、単純化したモデルで検証した。

ペースメーカー細胞の信号発生機構は、電気回路における、抵抗とコンデンサで構成された充電回路で、コンデンサーの充電電圧がある一定の閾値に達すると放電する発振回路のモデルで、シミュレートすることができる。コンデンサに相当する細胞膜は膜の内側と外側に電荷を蓄積し、抵抗に相当する細胞膜の漏出チャネルを通して放電する。一定の駆動力で絶えず電荷が供給されることで充電されるが、充電圧が大きくなると、抵抗を通して漏出する量が大きくなるので、充電の速度は遅くなり、電荷が供給されるスピードと漏出速度が同じになると、それ以上充電されず、最大充電圧を超えることができない。電圧が最大充電圧より低いある値(閾値)に達したときに、コンデンサは蓄積した電荷を一気に放電して、充電圧はゼロとなる。これが、心臓ペースメーカー細胞の発火現象に相当し、この後引き続き再び充電がおこなわれ、充電圧が上昇する。
放電から放電までの時間間隔は、個々の細胞の特性差によって異なるので、このままでは、一万個のペースメーカー細胞はてんでばらばらに充放電を繰り返し、洞房結節全体としての律動的なリズムを刻むことはできない。

そこで、ある細胞が発火すると、何らかのメカニズムで他の細胞の細胞膜電位がわずかに上昇する、と考える。多数の細胞間で各々が、他の細胞に対して同じように影響しあうとき、これらの細胞グループが自然に同期するはずだ、というわけである。第一印象として、ありそうなことだし、数学的なモデルを立てて証明することは簡単なようにも思える。ところがこれを、数学的に厳密に証明するのは、大変困難であることがわかった。ぺスキンは、たった二つの細胞で構成されるグループが、単純化した仮定の下で同期することを、数学的に証明した。
任意の数の細胞グループが、より一般化された条件で自発的に同期することの証明は、1990年、スティーブン・ストルガッツらによりなされた。

参考書:Steven Storgatz, "SYNC - The Emerging Science of Spontaneous Order" 2003
スティーブン・ストルガッツ「SYNC-なぜ自然はシンクロしたがるのか」2005、早川書房

memo :
2007/4/12

サーカディアンリズムにおける副交感神経活動の減少、加齢に伴う副交感神経活動の減少、ストレスによる副交感神経活動の減少、それぞれの機序の違いは?

【考えられる要因】
・心臓血管中枢の活動低下
・反射中枢の機能低下
・副交感神経そのもの(節前繊維、節後繊維)の活動低下
・神経節におけるアセチルコリン濃度の低下もしくは有効なコリン受容体の減少
・心臓におけるアセチルコリン濃度の低下もしくは有効なコリン受容体の減少
・伸展受容体からの求心性入力刺激応答の増加

サーカディアンリズムを支配している情報経路として自律神経が考えられているわけだが、自律神経活動自体のサーカディアンリズムの機序研究は?

交換神経活動の心拍変動に及ぼす影響について、機序の説明が必要。

memo :
2007/4/17

脈波情報コーナーで、慢性疲労症候群の罹患者において、ムスカリン1型アセチルコリン受容体に対する抗体(CHRM1抗体;CHAM1)が血中に検出された、という話を書いた。このことは、迷走神経からの刺激伝達が心臓に伝わりにくくなっていることを示唆すると思うのだが、このとき、迷走神経内の電気活動は弱くなっているのだろうか。そうでなければ、このようなときに自律神経(迷走神経)の働きが低下しているという表現は正確ではない。しかし、脳幹部もムスカリン性受容体が分布しているということなので、たぶん自律神経全体の働きが低下していると考えてよいのだろう。(これを見極めるにはどうしたらよいか。)

自律神経の作用を理解するのに必要な基礎事項 1 - 細胞内電位の発生
2007/4/18

自律神経が心拍数や循環系をどのように調節しているのか、そのメカニズムの本質にせまり、現在どこまで分かっているのか、を理解するための試み。

*細胞膜は絶縁体である。

*細胞膜には、Na,Kポンプというイオン輸送体(Na,K-ATPase)があり、ATPの加水分解エネルギーを利用して濃度勾配に逆らう方向にイオンを輸送する。このイオンポンプによって、細胞内のNa+が細胞外に、細胞外のK+が細胞内に輸送され、細胞内は細胞外よりもNa+濃度が低く、K+濃度が高い状態に維持される。ポンプ作用の活性は細胞内のNa+の濃度で調節される。

*細胞膜にはイオンを選択的に通過させるイオンチャネルがあって、イオンを透過する機構(ポア)と開閉機構(ゲート)を備えている。ポアには、イオンを識別するイオン選択フィルター機能、ゲートには刺激を感知して開閉を決定するセンサー機能がある。ゲートが開いていると、イオンは濃度の高い方から低い方へと拡散により流れる。

*静止状態にある細胞は一般にある種のKチャネルが常時開いていて、細胞の中から外にK+が拡散により流出して、細胞内の電位を細胞外に対して負の電位に保つように働く。この膜電位により、K+は細胞外から細胞内に向かう力を受け、この電気力と拡散力がバランスしているときの電位が、静止電位である。静止電位は、通常-90mV~-60mV 程度である。
 (と、Nernstの式を用いて説明してあるが、イオンポンプによる作用(内向きの輸送力)は、どこでどのように定量的に織り込まれるのだろうか?
→静止電位を発生させるのに必要なK+イオンの数は、細胞内K+の数のわずか20万分の1程度であり、一過性の、活動電位の発生や脱分極過程でのイオンの移動に対しては、細胞内のイオン濃度は一定と考えてよい。細胞電気活動の背景でイオンポンプが働いており、細胞内の恒常性を保っている、と考える)

参考書:曽我部正博編「シリーズ・ニューバイオフィジックス5 イオンチャネル 電気信号をつくる分子」、共立出版、1997

「SYNC」の続き :
2007/4/21

<心室細動>
化学反応で知られている、「ベローソフ・ジャボチンスキー反応」は、興奮・不応・静止、という三つの反応段階が中心から周囲に向かって、同心円状もしくはらせん状に進んでゆく。これは、二次元表面での反応だが、心筋のような3次元構造に拡張すると、スクロール波が発生することが理論的に知られるようになった。そして、このらせん波やスクロール波が発生すると、ペースメーカー細胞が発生する規則的な信号を払いのけて心悸亢進へと発展して、やがて心室細動という致命的な不整脈に発展することが突き止められた。ただし、心室細動を生み出す詳細なメカニズムをめぐっては、今なお意見が分かれている。

<バイオリズム>
バイオリズムは、1970年代に流行し、全ての人間は23日周期か28日周期か33日周期で増減するリズムを持っていて、それに基づいて今日の運勢をポケット計算機で計算する、というものだった。この理論は、現在では完全に否定されている。

しかし、人間の生理学機能の時間変化のリズムについては、さまざまな研究が精力的に行われている。

生活を共にしている女性の性周期が同期する現象についてのマーサ・マクリントックの画期的な論文が"Nature 229 (1971)"に発表された。この論文は多くの物議をかもし出したが、マクリントック等は、更に詳細な研究結果を"Nature 392 (1998)"に発表している。

一日周期の生体リズム(サーカディアンリズム)は、生体に固有の体内時計と昼夜の交代など環境変化の周期との同期現象と考えられている。この現象の生化学的なメカニズムについてはいまだに良く分かっていないところが多いが、体内時計のリズムを刻むサーカディアン・ペースメーカーと環境を分離した場合の研究などから、現象面の解明は進んでいる。

1960年代前半に、フランスの地質学者であり睡眠研究者でもあったミッシェル・シフルは、アルプスの地下洞窟という極寒の環境での2ヶ月間の単独生活から、時間を知る手がかりが一切ない環境で生活する時の基本リズムが24時間よりわずかに長い、という事実を裏付ける初めての科学的根拠を手に入れた。

1972年、NASAの後援を受けたシッフルとその研究チームは、今度は、気温が21度という快適な環境に保たれた、地下100フィートのミッドナイト・ケイブでの半年の生活を開始した。さまざまな生体計測器を身につけての、倦怠と苦痛に耐えぬきながらの実験である。
通常の生活では、睡眠周期と体温周期が同期しており、体温は早朝の睡眠時に上昇し、夜、就寝前には低下する。この実験でも、最初は約26時間周期で睡眠と体温周期が同期していた。ところがそのうち、実験開始から一ヶ月を超えるあたりから、睡眠周期と体温周期とが分離し始め、睡眠時間が極端に短くなったり長くなったりし始めた。本人はこのような現象が起きていることに全く気が付かなかったが、このように乱れた睡眠周期にもかかわらず、体温周期はきっちり26時間のリズムを刻んでいた。このように、二つのサーカディアンリズムが同一の生物内で異なる周期をとる現象は、「内的脱同期」といわれる。

1970年代半ばになって、エリオット・ワイツマンとその教え子チャールズ・サイスラーのグループは、12名の被験者を、ブロンクスにあるモンテフィオーレ病院内に設けた実験施設に閉じ込めて、時間隔離による生理学的変化を追跡する実験を行った。この結果、6名の被験者に内的脱同期が見られた。睡眠時間が長くなるのは、直前の覚醒時間が長いときに、それを補うために睡眠時間が長くなる、と考えるのは自然ではあるが、統計的にこのような関係が有意であるとは認められなかった。そこで、さまざまな生理的機能の時間変化を検討したところ、被験者の体温、コーチゾルの分泌量、そして注意力のレベルは一貫して24時間より長い一定のリズムを保っていた。そして入眠時における体温と睡眠時間の関係を検討してみると、短期睡眠は低体温時に始まり、長期睡眠は、高体温時に始まることが明らかとなった。また、注意深さのレベルも体温と相関し、体温が低ければ注意深さの度合いも低く、、体温が高いときには注意深さの度合いも高いことが分かった。さらに、その後の研究から、短期記憶や脳内ホルモンであるメロトニンの分泌、さらには、認知・生理学的機能などのリズムも体温周期と同じ周期を示し、一定の位相関係を保っている、ということも分かってきた。

自律神経の作用を理解するのに必要な基礎事項 2 - 細胞電気信号の発生
2007/4/22am

以下、前前回同様
参考書:曽我部正博編「シリーズ・ニューバイオフィジックス5 イオンチャネル 電気信号をつくる分子」、共立出版、 1997をもとに、まとめを続ける。

*何らかの刺激でNa+チャネルが開くと、濃度勾配に従ってNa+が外から細胞内に流れ込む。これが脱分極の過程で、膜電位はある値で飽和する。この値は開いているNaチャネルの数により、Kチャネルと同程度であれば0V程度であるが、Kチャネルの数を大きく上回れば+50mV程度になる。

*脱分極という表現では、応答の長さは数ミリ秒から秒のオーダーである。

*その後、刺激が止まってNaチャネルが閉じると、Kチャネルのみが開いた状態になって、膜電位は静止電位に復帰する。

*神経と筋肉は、特に寿命が数ミリ秒と短く、振幅が100mV程度で一定のデジタル的な電気信号を発生する。これは特に活動電位(スパイク、インパルスともいう)とよび、細胞の脱分極がある値(閾値)を超えると、その強さをインパルスの発生頻度に変換して、神経線維や筋肉繊維の中を高速に伝導する。

*イオンチャネルを開く刺激としては、電位、化学物質、機械刺激の3つが知られており、各々、電位作動型、化学作動型、機械作動型イオンチャネルと呼ばれる。

*化学作動型イオンチャネルは、特定の種類の化学物質と特異的に結合する受容体を持っていて、化学物質の種類に応じたさまざまな受容体チャネルがある。

自律神経の作用を理解するのに必要な基礎事項 3 - 神経細胞からの信号伝達
2007/4/22pm

*神経の軸策部分には、おもにNaチャネルとKチャネルが存在しているが、神経細胞の末端部分にはCaチャネルが分布している。このチャネルは純粋に膜電位の脱分極で開くことから、電位依存型Caチャネルとよばれる。

*神経線維を伝わってきたインパルス(活動電位)が神経終末に到達すると、Caチャネルが開いて神経終末のCa+濃度が増加するが、この濃度がもとのレベルに戻るには、数百msから、数秒かかる。インパルスは数十msから数百msほどの間隔で到着するので、Ca+濃度は積み上げられ、インパルスの到着頻度に比例する出力が発生する。(これは、放射線計測などで、連続するパルス信号の頻度をアナログ的に計数する積分回路と全く同じ動作だ!)

*神経終末には、信号を次の細胞に伝達するための化学物質を含むシナプス小胞が数十から100個程度あって、Ca+濃度が増加すると、シナプス(つぎの細胞との接合部分)内側の膜に融合して穴が開き、小胞内の伝達物質が放出される。この部分の詳細なメカニズムはまだ完全には解明されていない。

*神経伝達物質には多くの種類があり、シナプス後部の、信号が伝達される側の細胞膜には、各種の伝達物質と特異的に結合する受容体が存在する。伝達物質がここに結合するとイオンチャネルが開いて、後シナプス電位を発生させる。

*神経伝達物質の種類に応じた様々な受容体が存在するが、一般に1つの伝達物質に対して異なったタイプの受容体が存在する。例えば、アセチルコリン受容体にも、ニコチン型とムスカリン型があって、これらの受容体は異なる分子構造をもつ。

*特定の神経伝達物質、例えばアドレナリンに対する受容体において、アドレナリンよりも低濃度で強い応答を起こす化合物もあれば、アドレナリンの応答を阻害する化合物もある。前者をアゴニスト(作動薬)、後者をアンタゴニスト(拮抗薬もしくは阻害薬)と呼ぶ。呼称としては、制御されるイオン名を冠して呼ばれる。例えば、交換神経活動によりアドレナリンが放出されてCaチャネルが開くが、このCaチャネルを選択的にブロックする阻害剤は、Ca拮抗薬と呼ばれる。

自律神経の作用を理解するのに必要な基礎事項 4 - 筋肉細胞の応答
2007/4/22pm2

*アセチルコリンがアセチルコリン受容体に結合すると、アセチルコリン受容体陽イオンチャネルが開いて、Na+とK+の移動により、シナプス後膜が脱分極して終板電位が発生する。

*この脱分極によって筋細胞膜のNaチャネルが活性化されて活動電位が発生する。

*この活動電位は筋細胞膜の陥入部位(T管膜)に伝播してT管膜上の電位依存型Caチャネル(DHP受容体)が活性化される。

*この信号が、筋細胞内にある筋小胞体に伝えられると、筋小胞体膜上のCaチャネル(リアノジン受容体)が開き、筋小胞体に蓄えられていたCa++が筋細胞質中に放出される。

*筋細胞内のCa++濃度が上昇すると、収縮たんぱく質であるアクチンとミオシンの相互作用が開始され、筋肉が収縮する。

自律神経の作用を理解するのに必要な基礎事項 5 - 神経細胞の応答
2007/4/23

神経系における後シナプス細胞での電気信号発生メカニズムを考える。

*受容体イオンチャネルによる速い応答と、Gタンパク質に結合する受容体(Gタンパク質共役型受容体)を介するゆっくりとした応答がある。

*イオンチャネル受容体には、興奮性伝達物質受容体と抑制性伝達物質受容体があって、前者のイオンチャネルは陽イオンを透過して、後シナプス細胞に正方向の電位応答(脱分極)をおこし、後者のイオンチャネルは負イオン(Cl-)を細胞内に、もしくはK+を細胞外に透過して、負方向の電位応答(過分極)をおこす。これらの電位が加算されて、後シナプス電位が発生する。興奮性伝達物質の代表はグルタミン酸(Glu)で、グルタミン酸は中枢神経細胞のほとんどを脱分極させる。また、代表的な抑制性伝達物質は、γ-アミノ酸(GABA)である。

*グルタミン酸に対する受容体には、膜電位に比例して電流の流れる非NMDA受容体と、膜電位を0mV以上にしたときに初めて電流の流れるNMDA受容体がある。

*神経終末から細胞間隙に放出されたグルタミン酸は、まず、シナプス後膜の非NMDA受容体に結合して、おもにNa+,K+を通すイオンチャネルを開けて脱分極を起こす。単発の興奮であれば、非NMDA受容体で発生するシナプス電流のみが、信号伝達に寄与する。

*シナプス応答が加算されてシナプス後部の脱分極が大きくなると、NMDA受容体チャネルが開く。

*NMDA受容体チャネルは、Ca++に対する透過性が高く、このCa++は電位変動を引き起こすと共に、シナプス後細胞で細胞内反応を引き起こす。

*抑制性伝達物質のなかで、速い応答を引き起こす物質は、脊髄と延髄とでは、グリシンで、それより上位の脳ではGABAである。どちらも、Clチャネルを形成する受容体に結合して、Cl-の透過性を上げる。

*このとき、脱分極した膜電位がCl-の平衡電位まで引き下げられ、活動電位の発生が抑えられる。

ここまでが、速い応答の説明

*ゆっくりした応答を引き起こすGタンパク質共役型受容体に伝達物質が結合すると、Gタンパク質が活性化され、これに続いて、次のような複数の応答が起こる。これらの応答は、心筋細胞など神経細胞以外においても重要な役割を果たしている。神経細胞においては、記憶に関係する。
 ①アデニル酸シクラーゼを活性化して細胞内cAMP濃度を上げ、Aキナーゼを活性化する②ホスホリパーセCを活性化して、イノシトール三リン酸(IP3)とジアシルグリセロールを生成する。前者は、細胞内の小胞体に貯蔵されているCa++を放出させ、後者はCキナーゼを活性化する。(代謝型Glu受容体)
 ③これらを通して間接的にイオンチャネルの開閉を制御する。最終的には、代謝型受容体刺激で活性化されたタン パク質リン酸化酵素がタンパク質をリン酸化し、チャネル開閉のカイネティクスを変化させる。

自律神経の作用を理解するのに必要な基礎事項 6 - 心筋細胞の応答
2007/4/24am

*心筋細胞同士は、電気的にコネクソンというK+を通すチャネルタンパク質で結合しており、一回の拍動で必ず全ての心筋が収縮する。

*活動電位は、洞房結節に始まり、興奮伝導系を通って心室に伝播する。

*Naチャネルは刺激によりすばやく開き活動電位の火付け役となるが、静止電位が浅いと不活性化され、洞房結節と房室結節では不活性化されている。

*心筋のCaチャネルには、L型とT型があり、L型Ca電流は神経ほどは持続しない。T型は、より小さな脱分極で開く。

*ペースメーカー電位が閾値まで上昇する充電メカニズムは良く分かっていないが、Na+の流れるIf電流と、T型のCa電流で閾値まで脱分極する、というのが一般的な説である。

*交感神経や副腎皮質からのアドレナリンやノルアドレナリンは、筋小胞体のCa++取り込みを促進し、また、(Aキナーゼを介した)チャネルのリン酸化によりL型Ca++電流を増大して、心臓の拍動を増強する。心拍数増大には、If電流の増大も関係する。

*迷走神経はアセチルコリンを放出してKチャネルを開き、心拍数を減少する。また、cAMPを減少する作用もあり、交感神経による収縮増強作用を打ち消す。

呼吸と心拍変動の相関について
2007/4/25

(脈波や心拍変動についてネットで調べても、なかなか歴史的な情報が得られず、技術の現状が把握しにくい。歴史を踏まえた整理を心がけることにする)

心拍間隔が呼吸周期で変動していることは既に述べた。この現象は、既に1847年に知れれており、"respiratory modulation of arrhythmia"(RSA)とよばれている。
Ludwig, C. Arch. Anat. Physiol.. 13, 242-302 (1847)

近年、心拍変動Heart Rate Variability (HRV) として、更に長周期変動を含めたデータの解析がなされているわけであるが、これは、心拍間隔の変動の大きさ(振幅の二乗=パワー値)の周波数依存性を求めるものである。このとき、呼吸周期での心拍間隔の変動が認められるわけであるが、この結果からだけでは、心拍間隔が上昇するタイミングや最大になるタイミングは呼気のどの段階か、などの情報は分からない。多くの場合、心拍変動の呼吸周期らしい変動を呼吸周期とみなすことができて、一呼吸の間に何拍の心拍があるか、は推定できるが、心拍間隔が最大で減少し始めたときに、息を吸い始めた、というような思い込みでデータを見ていては、後で痛い目にあう。何事もそうだが、予断は禁物である。

2007/2/7に紹介した“心拍ゆらぎ:そのメカニズムと意義”では、呼気で副交感神経が活動して、心拍間隔が延長し、吸気で副交感神経活動が遮断されて、心拍間隔が短縮する、という。そこで、すぐにアルテットCで確認してみようと考えた。しかし、脈波変動解析だけでは、呼吸情報は得られない。そこで、測定開始から呼期間隔と吸気間隔を10秒程度と意識的に長く取って測定し、測定結果の時系列グラフ上で呼期間と吸期間を推定しやすいように測定してみると、全全逆の動きになっている。しかし呼吸を実際に測定していないのだから、かつ、パソコンを使っての測定で、時間情報の正確さは、不明としかいいようがなく、そのままお預けしていた。

一昨年、鼻先に小型サーミスタを設置して、呼吸も同時測定できるようにして同時測定してみた。すると、自然呼吸では従来からいわれているように、呼期間で脈拍間隔が延長し、吸期間で増大していた。しかし、意識的に呼吸周期を自然呼吸の半分程度にして、ゆっくりと呼吸してみるとなんとこの関係は逆転している。今後詳細な位相関係や変化開始のタイミングに付いての検討が必要と考えている。

という、最近の状況なのだが、このコーナーでも述べているように、ごく最近、同期現象についての数理学的な研究が進みつつあり、いろいろ調べていると心拍と呼吸の同期(つまり位相相関)についての重要な報告がNatureに発表されていることに気が付いた。
・Scha"fer, C., et al. : Heartbeat synchronized with ventilation, Natere, 392(1998) 239-240
である。
内容とその意味については追って、咀嚼して紹介したい。

心拍変動の意義と現状
2007/4/30

筆者のかかわってきた分野はセンサー応用技術なので、もっぱらそちらの方向から攻めるつもりが、関連分野の動向も理解しておかないと応用が利かないので、素人レベルで疑問や問題に感じることの勉強と整理、という作業になってしまったが・・・
生体リズムや生理活動のゆらぎが、生体のホメオスタシスを保つために重要であって、そのゆらぎを心拍変動という窓を通して眺める、というのがこの研究分野の分かりやすいイメージと思うが、では、その窓は、どこを向いていて、そこから何が見えるのか、(星を観測したいと考えて覗いてみたら、森の木が見えるばかりで、空の見える窓がなかった、なんてことになってないか)。歴史的な視点もまじえて、なんとか手っ取り早く整理して、問題意識を炙り出してみたい(というのがこのコーナーでのそもそもの課題の一つだ)。

とりあえず
・参考書:林博史ら:「心拍変動の臨床応用:生理的意義、病態評価、予後予測.」医学書院 1999
を中心に、必要なことを抽出させてもらう。不足分はネット検索などで補ってみた。(重要なのに引用情報が不完全なものがみられる。ネット検索では、たぶん・・・、だろう・・・、としかいえないが、ないよりまし)

*最初に心拍変動の臨床応用が示された文献・・・たぶん
Hon EH, Lee ST. Electronic evaluations of the fetal heart rate patterns preceding fetal death: Further observations. Am J Obstet Gynecol 1965;87:814-26.
胎児期の死亡との関連研究。タイトルから見る限り、まだ、Heart Rate Variability という表現になってませんね。Further observationsとなっているので、その前があるのかな

*1965年、既にSchneider とCostiloeが、心拍変動の低下と急性心筋梗塞の死亡率に関係があることを認めている。
と参考書にあるが、筆者の努力不足でピンポイントに、発表年と著者と内容が一致する文献にたどり着けない。
Referennce がしっかりしている海外のHPの記事
Analysis of heart rate dynamics by methods derived from nonlinear mathematics. Clinical applicability and prognostic significance
Department of Internal Medicine, University of Oulu
Merikoski Rehabilitation and Research Center, Oulu に
"In 1965, Schneider & Costiloe proposed that heart rate fluctuation is decreased in patients with an acute myocardial infarction."
とあるけど、これに限って、Referenceがない。このあたり、孫引きが幅を利かせていて、年号など間違ってる可能性があるかも。
発表年は遅れるが、内容は次の論文が近いか?
・Schneider RA, Costiloe JP, Wolf S. Arterial pressures recorded in hospital and during ordinary daily activities: contrasting data in subjects with and without ischemic heart disease. J Chronic Dis. 1971 Feb;23(9):647-657.
論文以外での過去のコメントなど、あるのかもしれない

*持続する"slow heart rate" の患者がに突然死が多かった、とする報告
・Hinkle LE, Carver ST, Plakun A: Slow heart rates and increased risk of cardiac death in middle-aged men. Arch Intern Med 1972; 129: 732-748
307例、7年間の追跡結果。"slow heart rate"とは:①日常活動中に予測される心拍数に達しない、②運動に対する心拍数の反応が悪い、③呼吸に伴う心拍数の周期的変動がほとんどない、④深呼吸や咳に伴う急激な心拍数の低下がみられないもの

*糖尿病患者の自律神経障害を簡単に検出する方法の報告として古典的なのはたぶん・・・
・D J Ewing, I W Campbell, A Murray, J M Neilson, and B F Clarke. Immediate heart-rate response to standing: simple test for autonomic neuropathy in diabetes. Br Med J. 1978 January 21; 1(6106): 145-147.
この論文では、起立後、15拍と30拍目のR-R間隔の変化を見ている。

*この分野でもっとも重要なのは、心筋梗塞を一度経験した人の予後(一定期間後の生存率)と心拍変動との間にはっきりとした相関がみられ、様々な追試験で確認されたことだ。最初の報告は
・ Wolf MM, Varigos GA, Hunt D, Sloman JG. Sinus arrhythmia in acute myocardial infarction. Med J Australia 1978;2:52-53.
この報告では、急性心筋梗塞の患者で1分間心電図を記録し、心拍数の呼吸性変動が大きかった群では、小さかった群より院内死亡率が低かったことを報告している。この論文はあまり注目されなかったらしい。

*世界的に注目されるようになったのは、1987年のKleiger らの報告以降である。
・Kleiger RE, Miller JP, Bigger JT, Moss AJ, the Multicenter Post-infarction Research Group. (1987) Decreased heart rate variability and its association with increased mortality after myocardial infarction. Am J Cardiol 59: 256-262.
この報告では、急性心筋梗塞患者808例の発症二週間以内の24時間心電図から、4年間の死亡率を追跡調査した成績を分析したもので、心拍変動の指標が他のいかなる指標よりも良い指標でかつ独立した指標であることを示し、大きな反響を呼んだ。

例えば、心筋梗塞患者の予後に関連がある因子としては、例えば、平均心拍数や左室駆出率、心室期外収縮数、心室頻拍の有無などが従来からいわれている。この論文が衝撃をもたらしたことの意味は、筆者の理解しているところでは、これらの従来指標よりも心拍変動の指標が死亡率とよく相関し、かつこれらの因子と心拍変動の間に因果的な相関は見られない(これらの従来因子を一定にした条件の下でも、なおかつ、心拍変動と死亡率について明らかな相関が見られる)という点にある。これを直感的な例えでいうと、例えば小学生の読解力について、いままで身長や体重と相関する、という研究が沢山あったのだけれど、年齢との相関をみると、もっと良い結果が得られた、というようなことになる。

*心拍変動の解析にパワースペクトル解析(周波数解析)を導入したのは、
・Akselrod S, Gordon D, Ubel FA, Shannon DC, Barger MA, Cohen RJ. (1981) Power spectrum analysis of heart rate fluctuation: a quantitative probe of beat-to-beat cardiovascular control. Science 213: 220-222.

*心拍変動解析の適用の範囲と手法を統一しようとする試みは、
・Task Force of the European Society of Cardiology and the North American Society of Pacing and Electrophysiology. (1996) Heart rate variability: standards of measurement, physiological interpretation, and clinical use. Circulation 93: 1043-1065.

脈波の物理学 0 :
2007/5/5

今回は波形情報に含まれる意味を少しでも理解するための試み
脈波を理解するために必要な知識の分野は幅が広いし、掘り下げて理解しようとすると、大変高度な話になってくる。
脈波の波形は、動脈硬化の進行などで、血管壁が硬くなると変化するわけだが、何故か。
脈波の波形を血管の硬さなどの物理的な性質から数学的に導ければ、逆に、波形の変化をもたらすパラメーターの特徴から、どうしてこのような波形の変化が起こるのかを理解しやすくなるはずだ。

ところが、管壁が柔らかいときの液体の詰まったチューブ内の波の伝播というのは、液体とチューブという二つの物質の相互作用で作られるので単純ではない。水面の波の伝播とか、ゴムのような弾性体を伝わる波とか、別々の話なら、教科書にあるので参照すればよい。
ところが、脈波のような二つの物質のからむ波動の解析というのは、物理や工学の世界では、あまりポピュラーではなく、教科書的な解説はほとんどない。(ネットで検索すると、液体とのケーブルの相互作用で発生する波動についての話があるが、これはたぶん海底ケーブルについての話)

ここでは、数学的な解析までは行かない。物理や科学技術の世界は、数学や方程式が不可欠で、門外漢には歯が立たないと感じている人が多いと思うが、実はもっと大事なことがある。方程式を立てたりして解析するのは、ほとんどの場合が近似であって、実際の世界の厳密な解がそれで出てくるわけではない。そして近似ということは、何をはしょって、現実をどう解釈するかというモデルが必要なわけです。このモデルが、大変重要。

液体で満たされた柔らかいチューブ内を伝わる波のモデルを一つ考えてみる。
チューブを横から見て透視した図だと考えて欲しい。三角形に膨らんでいるところが容積脈波である。
図解B で、脈波が進むのは矢印で示したように、この三角形の膨らんだ部分がそのまま横にずれて、進んでいくのだろうか。
この場合、注目して欲しいのだが、チューブの中の、もともとのまっすぐな部分の液体は、動かないのだ。
えっ、このモデルは間違ってるだろう。という直感に従い、このモデルはこれ以上考えないことにする。

 複雑な世界のモデルを立てるのに有効な方針は、単純化することであるが、(モデルを立てる作業自体が現実の単純化の作業だ)、その一つの手段が極端な場合の検討だ。

(1)血管壁がすごく硬い場合
まずは、動脈硬化が進んで、血管壁がカチカチで、全く膨らまない場合だ。血管の変わりに金属でできたパイプをイメージすればよい。そして入り口にポンプが付いているわけで、このポンプはメカ的なピストンでも良いのだが、ここでは心臓のイメージで考えてみよう。(以下の図のイメージでは、心臓というより、ウィンドケッセル作用で膨らんだ、大動脈起始部のイメージが近い)。

次に、パイプの中の液体の動きをどのようにイメージするのかがポイントになる。液体の分子レベルで、ここにあったこの分子が次の瞬間どこに行くのだろうか、を考えて、それを矢印で表すこともできる。しかしこのように考えて、突き詰めようとすると頭がこんがらがってくる。
そこで、イメージを得るために、管内の液体(血液)が、薄い円筒形に区切られていて、各々が薄いオブラートようなフィルムで包まれているとしよう。
下図で、左端が風船のように膨らんでいるポンプで、縮まろうとしている。それ以外の右側の部分の外壁は、金属のように硬い材質でできている。
図解C 左の風船が少し縮んだ状態が次の図。
図解D 左端の部分が押されて右に移動し、その移動で右側の液体が全てところてん式に押し出されて、右端の出口からフィルムに包まれた液体が一つ飛び出したところだ。
ここでの大きな仮定として、液体は押されても縮まない、と考えている。水や血液の場合十分現実に当てはまる仮定と考えられるが、このことと、金属パイプが膨らまないことから、すごく簡単で重要なことが言える。

*左からポンプが押した瞬間と、右から液体が飛び出す瞬間は同時である。
つまり、容積の変化を伴う波動は観測されず、左端の動きが右端に現れる作用の伝達速度は無限大だ。

このとき、重要なことは(ちょっとした仮定で、重要なことがいくつか出てくる)、
*この伝達速度は、液体が流れる速度ではない、ということだ。液体自身の移動速度は、フィルムに包まれた塊の移動速度であって、図のように、この円筒形の塊の幅一つ分だけ移動するのに、一秒間かかったとすると(考えやすい極端な例を考えているわけだが)、毎秒円筒形の幅一つ分の移動速度、がこの場合の液体の流速になる。
*それと、この場合血管が膨らまないので、容積脈波が現れない。それに対して、次の、血管が柔らかい場合、風船が縮むと縮んだ容積と等しい容積だ血管が膨らむ。これに関して、次項最後も参考にして欲しい。

(2)外壁がすごく柔らかい場合
この場合、液体は縮まないけれども(ということはフィルムで包まれた部分の体積は変わらない、ということ)、形は変わっても良い、ということを考えに入れる。すると、外の壁が柔らかいので左側が押されると、右側は液体が邪魔になって移動しにくいとしても、外側に広がることができる、つまりフィルムで囲まれた饅頭型の円筒形が押されてつぶれ、外側に広がるわけだ。こう考えて、変化の様子のイメージを時間の進行に従って追いかけてみたのが次の図。
図解E このように、容積脈波らしきものができるイメージが得られる。
このとき、上の最後の図の段階でもまだ、右端からは液体がこぼれ落ちてきていない。ポンプが縮み終わって、血液を出し切ると、容積脈波の塊が伝播して行き、それと共に押し出されてくる感じだ。重要なことの続きだが、
*血管が硬くなると、この脈波が伝わる速さが速くなる。速くなると、例えば、ポンプがまだ血液を送り出しているときに既に脈波、つまり膨らんだ部分が右端まで伝わっている、という状況になる。従って、このときの一瞬を捉えて血管を見ると、血管全体が膨らんでいるので、脈波の長さは長くなっている。
*しかし、液体は縮まないので、その分(ポンプから押し出される量が同じならば)波の高さは低くなっているはずだ。
*ところが、脈波は血管のある特定の部分の膨らみを測定して、その時間変化を見るわけで、膨らみ始めてから元に戻るまでの時間は、ポンプが収縮し始めてから収縮し終わるまでの時間であって、一定である。

これらは一応、極端な例として考えたが、現実にもありそうな感じはする。では、現実はどうなのだろうか。それなりの専門書には、それなりのことが書いてあるようだけれども、ここでは、筆者の私見から、次のようなそれらしい図を書いておく。

(3)現実は、たぶんこれに近い?
図解F 管壁の抵抗などで、真中の部分が押し出されやすい、と思うのだ。管壁の抵抗だけではなく末梢の抵抗など考える必要があると思うが、たぶん管壁の抵抗が大きくて、末梢抵抗が小さい場合にこのようになるのではないだろうか?この図のイメージでは、流れの速度が中心部で速い。容積の変化が観測される容積脈波だけではなく、容積脈波に先行する血流の波も考えないといけないようだ。

交感神経の役割 メモ
2007/5/6

実は、心拍変動や波形に及ぼす交感神経の役割について筆を進めたいのだが、知識を得るにつれ、一筋縄では行かない、分かりやすく整理し切れない、という状況だ。

安静時の心拍変動は、HF成分もLF成分も副交感神経活動で説明できる、そしてその調節作用は主に、洞房結節を通しての心拍数の調節作用を考えればよいということのようなので、安静時を評価するのは分かりやすい。

しかし、人は普通、安静でないときの方が多い。だから、交感神経活動を考えないといけない。
ところが、交感神経は、心拍数だけではなく、心筋力や血管の収縮作用、腎臓への作用などを通して血圧調節に影響するわけだが、それが心拍数に跳ね返ってくる。交感神経は、神経終末からのアドレナリン放出により、ターゲットの器官に作用するが、受容体は沢山の種類があって、全てアドレナリンに反応することについては同じなのだが、受容体のアドレナリンに対する反応性を抑制する物質が異なる。この反応性を抑制する物質が発生する条件というのが、交感神経に支配される臓器により異なるし、身体の活動状況によっても異なってくる。
だから、体調と心拍変動や脈波の変化(脈波変動と呼ばせてもらう)のかかわりをトータルで理解しようにも、個々のメカニズムの概要くらいは整理できていないといけない。しかし、論文などでは、「・・・については実はまだ、よく分かっていない」などの表現が散見される。

しかし、交感神経作用のメカニズムが整理できていない今の理解の段階でも、副交感神経作用のと交感神経作用の現象面での違いがはっきりしていることが一つある。周波数応答の違いだ。副交感神経の応答が現れるのはすばやく、アセチルコリン放出からすぐに、次の心拍間隔に変化が現れる(筈だ)。ところが、交感神経作用は、10秒くらい遅れて変化が現れるという。血圧が下がると、交感神経が働き血管を収縮させたり、心拍数を上げたりして、血圧を上げようとするが、これに時間がかかる。フィードバックに時間遅れが発生するわけだ。
筆者は、物理やアナログ回路技術そしてセンサー技術から入っているので、この過程をアナログフィードバック回路の周波数応答との類推で理解しておきたいと思っているが、このことは、項を改めることにする。

これに関連して、前々々回の呼吸位相との関連で気になっていることがある。安静時のLF成分は、副交感神経で説明できる(場合がある、といっておいたほうが正確か)ということだが、LF成分が見られるときに安静であるかどうかの判定が困難である。実験的には、交感神経遮断薬を用いて周波数特性の違いが出るかみているわけだが、日常生活でこういう事はやってられない。なら、LF成分の時間領域での応答で、何らかの時間的なずれが発生しているかどうかを見れば良いのではないか。心拍変動だけでは難しいかもしれないが、波形変化も含めた脈波変動を考慮すれば、何とかなるのではないか。そうすると、休んでいるときにLF成分がある程度見られる場合、この人は交感神経活動が収まっていないのか、交換神経活動は収まっているけれど、副交感神経調節がLFでも盛んに行われているのか、という判定ができるようにならないか。そうすると、さらにこの違いが、どのような体調の違いを反映しているか、が言えるようになるのではないだろうか?

何が交感神経を刺激するのか メモ
2007/5/15

交感神経活動の作用がどういう結果を及ぼすのか、メカニズムを踏まえて整理しようしとしながらまだできていない状況であるが、問題意識としては、交感神経活動の原因が大変気になる。交感神経の活動を評価しようとすれば、その結果生じる変化を考え、変化するものを観測すればよい。つまり何らかの変化の測定値を交感神経活動の指標にしようというわけだ。なのであるが、交感神経活動をストレスなり疲労などと結びつけるとなると、何が交感神経を活動させるのか、原因を知っておく必要がある。

副交感神経は、脳幹の心臓血管中枢から出ていて、圧受容体の反射中枢やや上位の呼吸中枢の影響を受けている、ということで案外すっきりしているが、教科書レベルの説明では、心臓交感神経は、脊髄の胸髄から出ている、とあるがその前が良く分からない。胸髄の交感神経節前繊維を刺激するものは何か。
ということで、調べてみると、現在進行形で研究されている部分のようだ。
とりあえずブックマークしておく。

視床下部背内側部の循環調節における役割
http://www.biol.tsukuba.ac.jp/tjb/Vol5No1/TJB200601200310772.html
何が交感神経を刺激するのか
「体温調節機能をつかさどる延髄交感神経ニューロンの発見」
http://physiology.jp/scyence-topic/5893/

脈波の物理学 1 :
2007/5/22

前回の脈波の物理学0で考えたモデルを、少しでも数学的に理解するための試み。数式は言葉で表現してみる。
前回の図で、血管の中の血液を見えないシートで、一定の体積の饅頭型の塊に区切ったが、これは左から押されて押しつぶされると、幅が狭くなると同時に断面積が広くなる。このとき、血管は膨張して張力が大きくなり圧力が増加する。また、左から押される圧力と、右側の圧力の差によって、加速される。そこで、圧力と移動速度の関係を考える。
数式を用いずに、言葉で表現するため、とりあえず、ある瞬間の、血管の長さ方向での変化の割合を勾配、特定の場所で観測した時間的な変化の割合を時間変化率と表現することにする。
すると、
①速度の勾配は、断面積の時間変化率に等しい
②圧力の勾配は、速度の時間変化率に等しい
ということがいえる。(ただし、ここでは、血管の膨張収縮の運動エネルギーは無視している。)
断面積は圧力と関係があるので、この二つの関係は、圧力と速度の二つの変数の関係を述べていて、数学的には、波動方程式として表される関係であって、脈波の性質を決めている。
とくに、断面積と圧力が比例すると、線形といわれる簡単なふるまいをする。しかし、残念ながら比例するわけではないので、非線形という複雑な関係になる。
ここで、管壁の張力が、フックの法則に従い、引き伸ばされる長さの割合に比例する、と考える。
すると、周囲長は半径に比例し、断面積は半径の2乗に比例するので、断面積は圧力の二乗を含む関係になる。
実際にはもっと複雑なことになっているわけだが、脈波の場合は、単に圧力が高いと管壁の張力も高くなるという自明な効果を差し引いてもなお、脈波伝播速度が圧力(血圧)に依存する、という結果になる。
詳細は、【関連・参考文献】※1(P23)を参照のこと。

動脈圧反射系
2007/5/30

【関連・参考文献】※2(P23)の第10章「心臓血管系の調節」に従い、メカニズムの要素に分解して順次読み解いてみる。

①動脈圧を検知するところ:頚動脈洞、大動脈弓
②検出圧を中枢に伝える神経:頚動脈洞神経、大動脈減圧神経
③大動脈圧制御中枢:脳幹部の血管運動中枢
④制御対象への伝達路:交感神経(この段階での疑問・留意点1;副交感神経は?)
⑤制御対象:心臓血管系(動脈圧が制御される。留意点2;動脈圧が制御されるメカニズムの具体的実態が記述されていない)

<静特性>
生体では、ここで元に戻って閉ループを形成している。
実験的に、薬物投与や、(動物で)神経を切断するなどしたときの、動脈圧と神経活動のみの関係、交感神経活動 と動脈圧のみの関係など、開ループの特性を考える。

動脈圧変化に伴う①の応答が④にもたらす変化が、機械-神経弓(留意点3;①-②、②-③、③-④ 間の 応答は?)
*動脈圧の減少 → 交感神経活動の増加(留意点4;実際には何を測定しているか?インパルス頻度?)

④の活動に伴う⑤の変化が、神経-機械弓
*交感神経活動の増加 → 動脈圧の減少

この二つの関係をグラフにしたときの交点が、実際の閉ループにおける動作点になる。
<動特性>
上の、機械-神経弓、神経-機械弓で、→で表した各々の間の関係を、伝達特性で考える。

*交感神経活動は、速い頚動脈洞内圧変化に対してより大きく応答する微分的な性質を示す。
 ・時定数は、(グラフから読み取ると)1~2秒程度
 ・位相は反転し、頚動脈洞内圧の上昇に対して、交感神経活動が低下する負帰還の性質を示す。
 ・高域(1Hz付近)のゲインは、低域(0.01Hz付近)の数倍程度

*血圧は、交感神経の速い変化には応答できない低域通過フィルタの特性を示す。
 ・遮断周波数は(グラフから読み取ると)0.1Hz 程度で、時定数は10秒程度。
 ・高域(1Hz付近)のゲインは、低域(0.01Hz付近)の 1/100 程度。

<動脈圧受容器の伝達特性>(留意点3;①-②間の特性)
*高域(1Hz程度まで)のゲインが低域に対して2倍程度に増加する、微分特性を示す。時定数は1~2秒程度

<交感神経と副交感神経による心拍数調節>
 (留意点5;この本の説明の流れだと、この項は、動脈圧反射の次に説明されているが、先に、機械-神経弓、神経-機械弓として示した、動脈圧反射系の要素として説明されているわけではない。つまり、動脈圧の変化に対する副交感神経活動の応答、という記述がないのだ。何故だろうか?)
*迷走神経刺激による心拍数応答は1次遅れ低域通過特性で近似できる。応答時定数は、1~2秒程度
*交感神経刺激による心拍数応答は2次遅れ低域通過特性で近似できる。応答時定数は、10秒程度
*このような動特性の差は、それぞれの神経系での神経伝達物質が洞房結節に作用する機序の差異による。
つまり、
*交感神経終末から放出されたノルエピネフリン(ノルアドレナリン)は、β受容体に結合した後、サイクリックAMP(cAMP)の上昇を介してイオンチャネルに作用する。
迷走神経終末から放出されムスカリン受容体に結合したアセチルコリンは、一部cAMPを介さずにイオン・チャネルに直接作用する経路が存在する。

<交感神経と副交感神経の相互作用>
*交感神経の緊張下に迷走神経を刺激すると徐脈効果が増大する。
*つまり、交感神経の定常刺激頻度が増加すると、迷走神経による心拍数応答は大きくなる。
*逆に、迷走神経の定常刺激頻度が増加すると、交感神経による心拍数応答は大きくなる。

心収縮性の神経性調節
2007/6/1

【関連・参考文献】※2(P23)のまとめのつづき。
心収縮性調節では二つの神経系の間の相互作用、心拍数調節との相互作用などを考慮する必要があり、必ずし も単純ではないことが、最近の研究で明らかになった。
*迷走神経は洞房結節に作用して心拍数を調節するが、直接的に心収縮性を低下させる作用を有するか、は長い間議論の的であった。
*最近の研究では、迷走神経の心収縮性への直接作用の程度は小さい、という結果が出ている。
*心室壁内には交感神経と迷走神経の終末が密接して存在し、それらが複雑に相互作用を及ぼすもととなっている。
*交感神経活動の存在が、迷走神経の効果を顕著にする現象(拮抗作用の強調)は、心収縮性の調節でもみられる。
*迷走神経の単独刺激では心収縮性低減作用はほとんど認められないが、交感神経刺激下での迷走神経刺激では心収縮性は明らかに低下する。
*このことから、迷走神経は、徐脈を介する以外に、交感神経による心収縮性増強作用を抑制することにより、心収縮性を変化させることができることが明らかとなった。

【関連・参考文献】
※1 日本エム・イー学会編 「血液のレオロジーと血流」コロナ社 2003
※2 日本エム・イー学会編 「心臓力学とエナジェティックス」コロナ社 2000

脈波変動解析の効用 メモ
2007/6/10

次の関連書籍を入手
①ジャン・ディディエ・ヴァンサン「感情の生物学」青土社 1993 (原著:1986)
②山下博、河南洋、前田正信「脳と循環-血圧は脳によって調節される」ブレインサイエンス・シリーズ20共立出版 1998
③中尾光之、山本光璋「生体のリズムとゆらぎ-モデルが明らかにするもの」日本エム・イー学会編/ME教科書シリーズC-3、コロナ社 2004
各々、中ほどまでも読み進めていないが、ここまで書いてきたことの流れにぴったり。
感想として、相当なことが調べられ、自律神経細胞により構成される回路網を含む解剖学的なことや、神経伝達物質などの化学的な内容については相当なことが分かってきているけれども、機能的なことになるとまだまだ分かっていないことが多く、これから、の世界。
血圧調節に影響する神経繊維や化学物質の種類は、ものすごく沢山あり、それらの個々の回路や物質が及ぼす効果は、身体の各部や他の状況により異なってくるので、それぞれの応答を交感神経活動の亢進などと一言でくくれるようなものではない。

脈波変動解析、という言葉で提唱させてもらっているが(提唱といっても、商品ソフトの名称に使っているだけだが)、この内容は、心電計測による心拍変動の変わりに、脈波による脈拍変動を用い、さらに脈波指数を含む幾つかの脈波指標の一拍ごとの変動も合わせて評価しよう、ということ。

測定した、自分や、社員、学生たちの脈波変動を見ていると、上記の書物の内容を合わせて、心拍変動のみで、実際の生体の制御メカニズムの構造と状態を判断しようとするのは、少し乱暴な気がしてくる。
最もしっくりくるのは、測定中に脈波の波形変化も合わせ見て、どのようなイベントが発生したか、そのイベントの強度と頻度を計測するのが良いような気がする。

実は、ここで今述べていることは、ほとんど評価されていない内容を含んでいると思うので、ここで言っているイベントについて、具体的な例を幾つか述べておく必要がありそう。
*心電でも評価できる内容だけど、呼吸周波数の二倍の周波数の成分が現れることがある。このようなイベントは、体内自動調節機能の何に対応するのだろうか。書籍②によると、延髄吻側腹外側部は、ペースメーカー様の自発発火活動をするという。単なる連想ゲームだけど、面白い現象だと思う。
*脈波指標であるb/aとd/aは波形指数の主要成分であって、各々、動脈の伸展性と末梢循環抵抗を反映するといわれているが、これらの呼吸周期成分および血圧変動を反映するマイヤー波成分はたいがい逆相の変化をする。つまり、b/aが大きくなるときはd/aが小さくなる。ところが、片方だけが変動するときや、同相変化を示すイベントがあり、頑強に何度測っても、同相変化を基調としている人もいる。
*脈波指標と脈拍変動は、同期するときと同期しないときがある。とくに脈拍変動では全くマイヤー波の変化が見られないのに、脈波指標は大変きれいなマイヤー波変動(らしき変化)を示すことがある。
*脈波の振幅と脈波指数も、きれいに同期して振幅が小さいと脈波指数が悪くなる、という分かりやすい動きをしていることもあるが、位相ずれや、見た目には相関が良く分からない変化を示していることも多い。

このようなイベントが、何らかの刺激に対する応答としてある程度の再現性を持って測定できるなら、きっと、
体内自動調節機能の要素を非侵襲で評価できる手段として重宝なものになると思う。

Imagination : 技術屋の文学的想像を交えて
2007/07/06

生物は太古の海を体内にたたえている、という。ここで、この未発達な原初の状態を想像する。
そうすると、体内の臓器は、その海の中に離れた状態で浮かんでいて、海水に隔てられた状態で互いに情報を交換し合っている。
基本は、海水中に情報物質を放出して各臓器に指令を伝達する。放出された情報物質は、基本的に拡散で四方八方に広がっていく。では、一体どの臓器がその情報物質に応答して活動すべきなのか。
実際には、臓器の中にはいろんな小器官があるわけだから、何千何万という器官がターゲットだろう。

各器官には、情報物質の種類に固有の受容体があって、この受容体が情報物質の種類に応じて反応したりしなかったりする。 各器官は、持っている受容体の種類が異なる。
指令を発する側からすれば、応答させたい器官に応じて、情報伝達物質の種類を変えることになる。

ところで、情報物質は、器官に、ある活動を起こさせる情報を持っているので、情報の種類ごとに違った分子が対応している。そうすると、器官Aと器官Dに同じ応答をさせるのに違った分子が対応していると、組み合わせの数は膨大になる。

コストパーフォーマンスを最適化(コストは、用いる分子の数)しようとするとどうなるか。全ての器官に同時に同じ応答をさせるだけでよいのなら、応答という情報の種類ごとに一つの分子が割り当てられていればよい。
そうすると疑問が元に戻ってしまうが、その活動を特定の器官Dだけにさせたいならどうするか。
コンピュータの技術屋にこの疑問をぶつけると答えはすぐに帰ってくる。
活動させたい器官に対応するアドレスを付ければ良いのだ!

コンピューターの内部では、CPU(中央演算装置)が、メモリやタイマー、外部装置へのインターフェースなどのデバイスに情報を伝えるのために、信号線の集まりであるバスで繋がっている。バスは路線バスのバスから来ている、ここでは風呂の湯につかっている、というイメージを引っ掛けても良さそう。一般的には全てのデバイスに同じバスが繋がっているので、各々のデバイスの入り口までは全て同じ情報が来ている。(このことは、LANなどで繋がった複数のコンピューターでも同じ事。特に無線なら否応なしに全てのユニットに電波が届いている状態を想定することになる。)
では、どのデバイスが情報を取り込むのか。
バスには幾つか種類があってデータ情報のみを流すデータバス、制御情報のみを流す制御バス、そしてデバイスのアドレスを指定するアドレスバスがある。
データバスを流すのに先立って、アドレスバスにアドレス情報を流すと、該当するデバイスのゲート(門)が開いて、次にデータバスに流れてくる情報を取り込むことができるようになる。

これでコストパーフォーマンスはどうなるか。伝えたい情報の数が8ビット256個、器官の数が同じく256個だとする。同じ情報でも器官により違う分子を割り当てるなら組み合わせの数256x256=65536個の分子が必要になる。しかし器官が違っても同じ情報は同じ分子で伝え、伝えたい器官は別にアドレス情報を伝える分子で区別すれば、必要な分子数は、256+256で512個ですむ。

自律神経活動にかかわる受容体は、神経伝達物質の種類により受容体の種類が違う。アセチルコリンにはアセチルコリン受容体、アドレナリンにはアドレナリン受容体がある。しかし、一般に1つの伝達物質に対して異なったタイプの受容体が存在する。例えば、アセチルコリン受容体にも、ニコチン型とムスカリン型があって、これらの受容体は異なる分子構造をもっている。
(2007/4/22の記事参照)
これは上で述べた効率化の仕組みを反映しているとはいえず、同じアセチルコリン型の動作をするのに、器官によりニコチン(類似分子)とムスカリン(類似分子)という別の分子を用いることがありうる、ということだから、上で述べた原始的な手法を反映している、といえそう。
では、次に紹介する記事についてはどうだろうか。(この項、2007/7/7に改め)

Gタンパク質共役型受容体
2007/07/07

少し前の号だが、日経サイエンス2006年2月号は、興味深い記事が満載で読み応えがある。
その中に、「創薬の新発想―標的分子の別の顔を狙え」と題する、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)をターゲットとする、新薬開発の記事がある。(他の記事についても後で簡単に紹介したい)

Gタンパク質共役型受容体(GPCR)については、2007/4/23の記事で書いたが、交感神経活動に関連するアドレナリン受容体はGPCRである。
アドレナリン受容体には、αアドレナリン受容体とβアドレナリン受容体の二つがあり、それぞれに、4つと3つのサブタイプがある。
例えば、心臓ではβ1アドレナリン受容体が心拍を速め心筋の収縮を強める作用をするが、肺ではβ2アドレナリン受容体が気道を拡張する作用を担っている。
また、アドレナリン以外の分子も、受容体の活性部位と相互作用するものがあり、作動薬もしくは拮抗薬として働くものがある。このことは、2007/4/22の記事で書いた。

最近、GPCRの「アロステリック」と呼ばれる特性についての理解が深まり、新薬開発に応用されつつある。
この特性は、受容体の活性部位以外の場所に分子(アロステリック調節因子)が結合して、受容体の立体構造と活性を変化させる性質だ。受容体全体がアロステリック調節因子結合部位となりうるので、アロステリック調節因子となりうる分子の数も膨大なものとなり、新薬開発競争が活発になっているという。

GPCRが活性化すると、細胞内のGタンパク質を刺激して特定の分子相互作用を活性化させるが、Gタンパク質には4つのクラスがあり、それぞれにサブタイプがある。そして、特定のGPCRは、特定のGタンパク質と結合するだけではなく、複数のタイプのGタンパク質とも結合する。その結合のしやすさの分布によって、GPCRの数が変わると活性化される細胞活動が変化する。

GPCRはまた、別のタンパク質と組み合わさって、単独ではなかった性質を持つ複合型の受容体ができることがある。各々のタンパク質は遺伝情報としてコード化されているが、この複合型受容体の振る舞いを予測できる遺伝子は存在しない。
複合型受容体は、複数のGPCRから構成されることもあれば、GPCRとそれ自身は受容体ではないコプロテインとの複合体の形をとることもある。たとえば、強い血管拡張作用をもつCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)の受容体は、カルシトニン受容体とRCPというコプロテインの複合体であって、妊娠中に胎児にとって重要な組織への血液供給量を増やす働きをする。

セロトニンは気分を高揚させる脳内の神経伝達物質として知られているが、脳以外では腸と血管に作用する。このセロトニン受容体には多くのサブタイプが存在し、さらにコプロテインであるモジュリンと結合して複合体を作る。こうして、体内の様々な場所で働いているセロトニン受容体はモジュリンと複合体を形成して受容体の機能を変え、細胞に及ぼすセロトニンの影響を調節していると考えられる。

光電脈波センサーの理論 1 :
2007/8/1

A.透過型
*指がない場合の、フォトダイオードへの入射光量:Pin

*血液がない場合の、フォトダイオードへの入射光量:Pn
血液以外の組織のみによる吸収、散乱の効果を見ている。
血液以外の組織のみによる透過度を K とすると
      Pn = Pin x K

指の測定部位を強く圧迫すれば血液を排除できるが、
透過型の場合実際に評価しようとすると、測定光にたいして透明な物質を用いて圧迫する必要がある。

*測定時の、フォトダイオードへの入射光量:Pout
血液による吸収・散乱係数を β
血液の固定成分を b (光路に存在する血液を一ヶ所に集めたときの厚さを考える)
血液の変動成分を d とすると、

       Pout = Pn x exp [-β* ( b + d )]
図解G *フォトダイオードの短絡電流は、一般に入射光量のべき乗で表さる。
(短絡電流) = C x (入射光量)^γ     γ ~ 0.9

*電流電圧変換回路により、出力電圧を測定する。

下の図で、フォトダイオードの両端電圧は 0V とする、
図中の記号は、上の図の指なし、血液なし、測定それそれに対応する。
図解H (以下、掛け算の記号はアルファベットのエックスと混同するので、*で掛け算を表します。)

*指なしのとき
In = C*Pn ^γ γ~0.9
En = R * In R : 検出抵抗
= R * C * Pn ^γ
= A * Pn ^γ

*測定中
Iout = C * Pout ^γ
Eout = R * Iout
= R * C * Pout ^γ
= A * Pn^γ* exp[-βγ* ( b + d )]
= En * exp[-βγ* b ] * exp[-βγ* d ]
≒ En * exp[-βγ* b ] * ( 1 - βγ* d )]            βγ* d << 1
= En * exp[-βγ* b ] - En* exp[ -βγ* b ] *βγ* d

ここで、光路にある血液量を、拍動により変化する成分(ac成分、脈圧に相当する)と、変化しない成分
(dc成分、最低血圧時の血液量に相当する)に分解し、測定電圧のdc成分をEdc、ac成分をEacとする。
図解I Edc = En * exp[-βγ* b ]
Eac ≒ En * exp[ -βγ* b ] *βγ* d
= Edc *βγ* d

Ln (En / Edc) = βγ* b

Eac / Edc ≒βγ* d

d / b ≒ Eac / Edc / Ln (En / Edc)
= Eac / (Edc * Ln (1 + (En - Edc) / Edc)
≒ Eac / (En - Edc)
En - Edc << Edc (成り立つか? 要検証)

以上は、測定した回路電圧E での表現ですが、E はフォトダイオードの受光量 P と、
E = A * P ^γ
の関係にあります。
ここで、元に戻って受光量 P で表現しまておきます。

Pout = Pn * exp[-β* ( b + d )]
=  Pn * exp[-β* b ] * exp[-β* d ]
≒ Pn * exp[-β* b ] * ( 1 - β* d )]            β* d << 1
=  Pn * exp[-β* b ] - Pn* exp[ -β* b ] *β* d

Pdc = Pn * exp[-β* b ]
Pac ≒ Pn * exp[ -β* b ] * β* d
= Pdc * β* d

b = (Ln (Pn / Pdc)) / β
d ≒ Pac / (Pdc *β)
d / b ≒ Pac / (Pdc * (Ln (Pn / Pdc)))

先ほどの、測定電圧の図において、横軸に意味はありませんが、今度は、LEDからの照射光が指の皮下に入ってから出てくるまでの間の、光の通過距離(光路長)を横軸にとり、その途中の光路中を通過する光量を縦軸にとったグラフを示します。
このグラフでは、主に真皮に分布している血液を全て光路の最後にまとめる、というイメージでのモデル化したグラフで、最初に血液のない組織を通過し、その後に血液のみで吸収散乱される、とみなしています。
図解J (つづく)

標準値データ集(パーソナル版)
脈波速度c(大動脈での実測値): 4~10m/s
大動脈の血流速度: 1~1.5m/s

脈波速度の正常値:若年者のおおよその値
頚動脈-大腿動脈; 500~700cm/sec
頚動脈-トウ骨動脈; 700~900cm/sec
大腿動脈-足背動脈; 800~1000cm/sec
上腕-足首; 900-1300cm/sec 男性が女性より高い

光電脈波センサーの理論 2 :
2007/9/29B. 反射型

主な特徴
*透過型に比して、指の組織を透過する光の光路長が短く、かつ細動脈以外の組織を通過する割合が小さいので、受光量とともにS/Nが大きく測定しやすい。
*細動脈が分布する真皮層を通る光路に加えて、血液のない表皮層のみを通る光路が存在する。
*指先に力をこめて圧迫すると、細動脈から血液が排除されて、血液のない組織を透過する光量を測定することができる。

イメージ図
図解K 図解L